広島家庭裁判所福山支部 平成6年(少ロ)1号 決定 1994年4月11日
本人 R・Y(昭和49.8.28生)
主文
本人については、補償しない。
理由
当裁判所は、平成6年1月11日、本人に対する平成5年少第570号、第593号、第605号、第754号、第790号窃盗、毒物及び劇物取締法違反保護事件(以下総称して「全事件」という。)について、第570号、第593号、第605号、第754号、第790号(但し、別紙事実を除く。)事件の各送致事実は認められ、第790号事件のうち別紙事実(以下「本件」という。)は認められないとして、「1 少年を中等少年院に送致する。2 平成5年少第790号事件の送致事実のうち、別紙事実については、少年を保護処分に付さない。」との決定をした。
一件記録によれば、本人は、本件を含む第790号事件の送致事実に基づいては身柄を拘束されていないが、第570号事件の送致事実に基づき平成5年10月13日から同年11月2日まで逮捕、勾留され、引き続き観護措置決定により同月25日まで少年鑑別所に収容され、同日観護措置取消決定のうえ同年12月15日まで第754号事件の送致事実に基づき逮捕、勾留され、引き続き観護措置決定により平成6年1月11日まで少年鑑別所に収容されたことが、それぞれ認められる。そこで、上記各身柄拘束期間が、本件についての取調べ等のために実質的に利用された関係があるかについて検討すると、同じく一件記録によれば、平成5年10月20日に本人が本件の犯行現場、賍物の投棄場所を含む全事件の関係場所のうち約10か所を案内する引き当たり捜査が行われたこと並びに同月29日及び同年12月12日付けで本件についての本人の警察官調書が作成されたことが認められ、これらのことからすれば、第570号事件及び第754号事件の送致事実に基づく身柄拘束期間のうち、少なくとも上記取調べの行われた期間については、本件の取調べに実質的に利用された関係があるということができ、この期間については一応少年の保護事件に係る補償に関する法律2条1項の補償要件に該当するものということができる。
しかしながら、同法3条2号によれば「数個の審判事由のうちその一部のみの存在が認められない場合において、本人が受けた身体の自由の拘束が他の審判事由をも理由とするものであったとき、又は当該身体の自由の拘束がされなかったとしたならば他の審判事由を理由として身体の自由の拘束をする必要があったと認められるとき」には、同法2条の規定にかかわらず、補償の全部又は一部をしないことができる旨規定されているから、仮に本件が当初から認められなかったとしても、そのことが本人についての上記身柄拘束期間に影響を及ぼさないと考えられるときには、本人が本件により不当な身柄拘束を受けたということはできないから、同法による補償の必要はないというべきである。そこで、この点について一件記録を検討すると、全事件は、本人が、成人共犯者とともに乗用車で半ば放浪状態の生活を送りながら十数件に及ぶ窃盗(主に侵入盗)を繰り返した事案(但し、第593号事件は毒物及び劇物取締法違反)であり、また本人は、少年院送致(一般短期処遇)を含む7件の前歴を有し、本件当時は保護観察中であったにもかかわらず、無為徒食の生活を送るうちに全事件に至り、しかもその間有機溶剤への耽溺を深めていたもので、これら全事件の事案の性質、全事件の関連性及び本人に関する高度の要保護性並びにこれらを前提とする捜査、調査の経過、内容からすれば、仮に本件が当初から認められなかったとしても、本人に関する上記身柄拘束期間が短縮されたであろうと認めることはできない。なお、全事件では、本人は、第570号事件に続いて第754号事件の送致事実によっても身柄を拘束されているが、これは成人共犯者が遅れて逮補され、その供述により第754号事件の送致事実について、本人に強制捜査及び観護措置の必要性が新たに生じたことによるものであり、やむを得ないものということができる。
以上によれば、本件は、同法3条2号に該当するので、同条本文により本人に対し補償の全部をしないこととし、同法5条1項により、主文のとおり決定する。
(裁判官 佐々木亘)
別紙
少年は、Aと共謀のうえ、平成5年10月6日午前2時ころ、広島県沼隅郡○○町大字○○××番地の×所在の甲店において、B所有の現金約6万0300円及びレジスター1台他5点(時価合計約10万3000円相当)を窃取したものである。
〔参考〕 保護事件決定(広島家福山支平5(少)570号、593号、605号、754号、790号、窃盗、毒物及び劇物取締法違反保護事件平6.1.11決定)
主文
1 少年を中等少年院に送致する。
2 平成5年少第790号事件の送致事実のうち、別紙事実については、少年を保護処分に付さない。
理由
(非行事実)
第1 司法警察員作成の平成5年10月15日付少年事件送致書別紙(編略)記載の事実
第2 司法警察員作成の同年11月4日付追送致書別紙(編略)記載の事実
第3 司法警察員作成の同月9日付追送致書別紙(編略)記載の各事実
第4 司法警察員作成の同月26日付少年事件送致書別紙(編略)記載の事実
第5 司法警察員作成の同年12月22日付追送致書(2通)のいずれも別紙(編略)記載の各事実(但し、別紙事実を除く。)
(法令の適用)
第1、第3ないし第5の各事実につき
いずれも刑法60条、235条
第2の事実につき 毒物及び劇物取締法24条の3、3条の3、同法施行令32条の2
(一部不処分の理由)
平成5年少第790号事件の送致事実のうち別紙非行事実について検討するに、一件記録によると、共犯者とされるAが、平成5年10月6日午前2時ころ、広島県沼隅郡○○町大字○○××番地の×所在の甲店において、B所有の現金約6万0300円、レジスター1台他5点(時価合計約10万3000円相当)を窃取した事実は、これを優に認めることができる。しかしながら、少年は、捜査段階及び当審判廷において、上記Aの犯行につき、同日午前1時ころ、少年がAらとともに同甲店近くの駐車場に停車中の普通乗用自動車内にいたところ、Aが海を見たいと言ってひとりで車から降りて行き、少年らは一旦同駐車場を離れ、暫くしてから同駐車場に戻り、Aを待っていたところ、同人がレジスターを抱えて車に入れたので、同人が同甲店で盗みをしたことが初めて分かった旨の供述をしており、Aの警察官調書の内容も、そのころ、同人が、同駐車場において、ひとりで車から出て、同甲店を見たところ、周囲には人家等もないので盗みに入れると思い窃盗を決意し、ひとりで窃盗に及んだというもので、概ね少年の供述に副うものである。そうすると、少年は、Aの上記犯行を共同して実行した事実がないのは勿論、同人から事前に同甲店において金品窃取に及ぶことを打ち明けられたり、暗黙のうちにその意思を相通じたことを窺わせる証拠もなく、むしろAの犯行後に初めてその事実を知ったと認められるから、少年を共犯者とすることはできず、当該事実については、少年に非行事実が存しないことに帰するから、少年を保護処分に付さないこととする。
(処遇の理由)
本件非行の態様並びに少年の性格、資質、前歴、生活状況及び保護者である実母との関係を併せ考えれば、少年の健全育成のためには、少年院での矯正教育が必要と考えられる。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 佐々木亘)
別紙
少年は、Aと共謀のうえ、平成5年10月6日午前2時ころ、広島県沼隅郡○○大字○○××番地の×所在の甲店において、B所有の現金約6万0300円及びレジスター1台他5点(時価合計約10万3000円相当)を窃取したものである。